スポーツをする上でプロを目指すことは大きなモチベーションとなりますが、プロになるとしてもいつそうするべきなのかをよく考える必要はあるでしょう。
ITFによるとテニスのジュニア世界ランキングトップ100の選手のうち、プロでトップ100に入れるのは女子で19%、男子ではたった7%。フェデラーの年収が70億円である一方で"プロ"テニス選手のうち43%が1年間に100円も賞金を稼げていない現実、96%の選手は遠征費などを含めた収支が黒字にさえならないという現実があります。
バスケ、野球、アメフトを含む各スポーツでプロを多く輩出し、男女ともにITFジュニアの1位選手が所属するIMGアカデミー(高校)でさえ卒業後にすぐプロになるのは毎年1-2%、残りの98%以上は大学へ進学します。プロとはそれほど狭き門であり、また前述の通りプロになれてもそれで生活が成り立つかは全く別の話だからです。
USTA/ITFの調査結果によると、世界ランキングでトップ100以内に入る選手はプロ転向後、平均約4年でそれを達成。そしてトップ20、トップ200のいずれも平均年齢は26歳。またプロ転向の年齢に関係なくプロとしてのキャリア年数は平均で7年間。それであれば素晴らしい設備や待遇を提供するアメリカの大学でトレーニングを積み、卒業後の自分のレベルと実績次第でプロ転向を考えても遅くはないのではないでしょうか。スタンフォードやUCLAを筆頭としたNCAA所属の名門大学を卒業するチャンスさえあるということは、将来あなたがプロ選手以外のキャリアを選択するという99%の一人になった時にも大きなリスクヘッジとなるはずです。
アメリカの大学では約60万人の学生アスリートが活動し、その多くが毎年総額で約4,500億円もの奨学金を手に入れています(アメリカの奨学金には返済義務がなく、返済義務があるものはローンと呼ばれます)。この奨学金は入学前に確約されるもので、授業料はもちろん寮費、食費、書籍費用からお小遣いまで支給されることも珍しいことではなくスポーツ用品もスポンサーによって支給されることが多くあります。ちなみに2019年度NCAAディビジョン1女子テニス選手の奨学金はスタンフォード大学、ミシガン大学、デューク大学、ノートルダム大学ともそれぞれ年間一人当たり約800万円が支給されます。NCAAディビジョン1女子テニスの場合チームあたり8名までがこの奨学金対象となります。フットボールでは各チーム85名まで、バスケでは1チーム13名まで奨学金が認められます。ディビジョン1の女子テニスチームは312、掛け算をすればアメリカの大学で奨学金を獲得することが必ずしも夢の話ではないことがお分かりいただけると思います。その一方でスポーツのスキル以外に学業成績やTOEFL、SATのスコアなど求められますのでこの奨学金を狙うのであれば早い時期から何が必要になるのか、それが現実的なものなのかも含め確認し、その実現のためにどうすればいいのかを考えながら準備することが重要となります。
Courtesy of Mr. Patrick O’Rourke
オバマ大統領タスクフォースで主席顧問も務めたスティーブ・ラトナー氏によると、ハーバード大学の一般の合格率は6%であるのに対してコーチにリクルートされて出願した学生アスリートの場合、合格率は86%にも跳ね上がるとのことです。これらの数字はUS Newsで一般の合格率が5%、ハーバードクリムゾン紙でアスリートの合格率が約83%と完全に同じではないものの、それぞれ大枠で一致しています。一般出願でもアーリーディシジョンでは合格率が15%程度になるようですが、それと比較してもやはりアスリートはかなり有利になると言えます。ハーバードを含むアイビーリーグではスポーツでの奨学金はないものの、入学そのものが大きなメリットであり、結果としてそれが将来の収入にポジティブな影響を与える可能性が高いことから、ある意味ではその他の大学で奨学金を得ることと同等かそれ以上の効果を生むとも言えるでしょう。
学生アスリートの合格率が高いという傾向は他の大学にもあてはまります。ワシントンポスト紙の調査によると、ミシガン大学では2018年にスポーツ枠で出願した333名のうち312名(94%)が合格し、カリフォルニア大学アーバイン校でも84%が合格。ノースカロライナ大学チャペルヒル校も合格率は78%と高くなっています。LAタイムズ紙によると2017年度と2019年度でUCLAが98%の学生アスリートの出願に「青信号」を出しました。2019年度UCLAの一般合格率は14%ですので合格率に7倍の差がついたことになります。
とはいえ、日本人がアメリカの大学に進学する場合はまず言葉や文化の壁を乗り越える必要があり、また常に成績というプレッシャーを受けながらプレーすることとなります。この点では日本国内の大学進学に比べてより大変ではあるものの、逆に言えば言葉や文化の違いを乗り越えプレッシャーへの対応やタイムマネジメントといった社会人として非常に重要なスキルを自然と身につけることができることとなり、プロスポーツ選手になるならないに関わらずキャリアで成功を手に入れられる可能性を大きく高められることとなるでしょう。
NCAAとはThe National Collegiate Athletic Association (全米大学体育協会)の略で、入場料やテレビ放映権料、グッズ販売などを管理し、膨大な資金と各大学への影響力を持ちます。NCAAはディビジョンがI, II, IIIと別れており、約1,100の加盟大学、24のスポーツ、19,500チームに所属する学生アスリート数は合計で約50万人と膨大で、各大学公式チームはこの中で90もの選手権を争うこととなります。高校卒業後にNCAAの学生アスリートになる割合はテニスで男女共約5%。野球は7%、サッカーは男子6%、女子7%、バスケは男子3%、女子4%。ゴルフでは男子6%、女子7% です。
NAIAはNCAAに次いでメジャーな全米インカレスポーツの協会です。約250の大学とそこに所属する約77,000名の学生アスリートが加盟し、NCAA同様に加盟大学はスポーツ奨学金の予算を持ちますが、その予算額は約880億円と全体的にNCAAと比較すると小さくなります。NCAAと違い登録基準である評定平均の計算に指定科目がなく、SATやACTも必須とされていないことから、それら基準がNCAAに満たない場合でもNAIAで奨学金を狙える可能性があります。ただし大学ごとに入学基準がありそれを満たす必要はあります。
NCAA | NAIA | NJCAA | |
所属カレッジ数 | 1,098 | 238 | 480 |
ディビジョン数 | 3 | 2 | 3 |
スポーツ数* | 40 | 25 | 27 |
カンファレンス数 | 102 | 21 | 24** |
チャンピオンシップ数 | 90 | 27 | 52 |
所属学生アスリート数 | 460,000 | 77,000 | 60,000 |
うち留学生数 | 20,000 | - | - |
奨学金規模 | 3,000億円 | 800億円 | 200億円 |
*男女それぞれ一つのスポーツとカウント
**NJCAAはカンファレンスではなくリージョン制